9 玉打ち
凍てつく朝、積雪があれば、生徒は落ち着かない。授業打ち切り、雪中行軍を期待しているのである。
決定すると学校中が歓声で湧く。
中庭集合もいつもより早い。諸注意も上の空、笑顔が校門を出て行く。
私も、負けじと靴を縄で結わえ滑らぬ用意怠りなく、白地に赤十字も鮮やかな救急箱を肩にサッソウと後を追ったまでは見事だったが、坂道にさしかかるとテンデナツテナイ、滑っては転び、転んでは滑り、男子生徒に手を引かれ後押しされて、目的地に着いたときはもう動けないほどであった。
小憩後、いよいよ雪合戦が始まる。山全体が若々しい声で埋まる。
一に勉強、二に勉強、三四がなくて、五に勉強―――といった現今の風潮からすれば別世界の青春群像であったと、思い出せば感慨もひとしおである。
ガシャ先生帰り着いてのたまわく。
「小便しとうなったけん、物陰に隠れてしよったら、雪のふとっか玉のピシャリ息子に当たったもんなあ。玉が玉打ちたい」