8 苦しい体験
肺活量測定日。
保健室で、なぜするのか、実施の方法、結果の意義等について生徒に説明した後、名簿順に始める。保健委員が記録係。
「ハーイ、息を吸って、静かに思い切って吐いて」
「よし。君の肺活量は3,500。まあまあ上等。ハイ次」
と、スムーズに進行していった。
用務員のmさん、用事でもあったのか、保健室へ来て、生徒のすることをジーッと見ていた。好奇心旺盛なmさんのこと、何か言うぞと思っていたら、案の定、
「先生、オイにもやらせて下さい」
―――そらきた。
「良かよ。してみんね。仕方分かっとる」
「今、見とったけん」
「ハーイ、息を吸って」
と、言ったとたん、肺活量計の水槽タンクの水が、ゴボゴポと音立てて滅りはじめた。
―――何だこりゃあ!?
思い当たってmさんを見た。
mさん、お猿が好物を口一杯頬張るように頬を膨らませ、目には涙を溜めている。
「mさん早う水ば吐き出さんね」
mさんは、器具を早々と口につけたまま息を吸い込んでいたのである。
一件落着して、mさんは言った。
「先生、こん検査は苦しかもんですね」