5 やさしい拾い物
夏の陽射しが中庭に校舎の影をきっかり落としていた。
「先生」
d君が初老の婦人を背負って入ってきた。e君がその後ろから、婦人の荷物と二人の鞄とを持って付いてきている。
「どうしたと」
「オイたちが裏門前のバス停でバスば待っとったとさね。この小母さんもバスば待っとんなったとばってん、急にしゃがみこんで苦しそうにしとんなったけん、コイと相談して高原先生のとこに連れて行こうでということになって、そいで、オイがかろうて来たと」
婦人は顔面蒼白、冷や汗を浮かべて、立ってもおれない様子。
さっそくベッドに横になってもらい、衣服を緩め、顔を濡れタオルで拭いてあげ、温かいお茶をふるまい、風を送ってあげた。たぶん、暑い陽射しに立ちくらみを起こされたのだろうと思ったからである。
30分ぐらい休んでもらったら、すっかり元気を取り戻し、繰り返しお礼を言って帰って行かれた。
「今日は良かことしたね。お年寄りには親切にせんばね。人間、誰でん年寄りになっとやけん。」
二人のほっとした表情が美しい。
「ばってんね、今日は立ちくらみやったけん良かったとさ。お年寄りは何で倒れるか分からんとよ。たとえば、脳出血だったり、心不全だったりしたら、私じゃどうもならんとよ。倒れなって、おかしかて思うたら救急車ば呼ばんば。呼び方知っとるね」
うなずく二人に、言わずもがなのことを、ぽんぽんと付け加えてしまった。
「もう、何でんかんでん拾うてこんとよ。こっちの心臓のことも考えてよ」
「うん。分かった」
帰ってゆく二人の背中がやさしかった。