12 検便三話
第一話
4月、定例の健康診断の一つ、検便実施の日。各学年別に日を決めて実施していたが、3年生が保健室まで持ってこない。検査を依頼しているところからは、午後には取りにくるようになっている。やむなく私がダンボール箱を持って取りにゆくことになる。
教室に入ると、
「おーい、クソ婆がクソば集めに来たぞ」
と、大声で触れる。
―――何言うか。自分のタレたクソではないか、なぜ持ってこん。
と、腹のなかで毒づきながら、ダマーッて集めた私。
………チクショウ。
第二話
保健室の私の机に、かなり大きいデパートの包み紙がある。上に
「高原先生へ―――おみやげ」
とある。
―――ハテ、何かな。
包み紙を開いてみる。紙の下にまたきれいに包んだ紙。幾重にも重なっている。お猿がラッキョウの皮をむくようにして、やがて現れたのは―――マッチ箱入りの便。
―――クソッタレ!
犯人のh君、今では社長。息子も東高であったが、この子はまた真面目そのものの秀才型。
―――そうか。あんな手を使って、よほどいい奥さんをだましとったのか。
第三話
同じクラスの三人を呼び出した。
「あんたたちは今度の検便の結果回虫卵の見つかったとよ。そんのけん、駆虫薬ば飲まんばつまらんとさね。明日は朝御飯は食べたらいかんよ。食べずに学校に来て、授業の始まる前に保健室に来て薬ば飲むとよね」
「先生、iには回虫おらんやったと?」
「うん。おらんやったよ」
「そりゃあオカシカ」
と、三人が声を張り上げる。
「どうしてね、何のオカシカと」
「オイたちはクソば持ってくるとの面倒くさかったけん、iのクソば分けてもろうて出したとやもん。iにおらんで、オイたちだけおるってオカシカやろ」
はたと困った。話が本当なら「オカシカ」のが道理である。
「そんならi君ば呼んで」
と、呼び出して確かめると、三人の言うとおりだと認めた。そこで、駆虫薬を飲まねばならぬこと、その際薬代(利得者負担)を持ってくること―――と説明した。すると、i君、
「オイには回虫はおらんごとなっとっとでしょう。本当は飲まんちゃよかごとなっとるとばってん、先生が飲めて言うなら飲むさ。そいばってん、金はアイたち三人から割勘で取ってくださいね」
と言う。これまた、道理。
「あんたたちで話し合うて決めんね」
と、退散してもらった。誰が払ったか、忘れてしまったけれど、いかにも高校生らしい愉快な連中であった。