11 腸捻転
数名の生徒がg君を抱え込むようにして保健室に来た。
「どうしたとね」
青い顔のg君をベッドに誘いながら訊くと、部活(確か新聞部だったと記憶するが、確かではない)の最中、急に腹痛を訴えたのだという。
腹を押さえると、ぱんぱんに膨張していて、泣き出しそうに痛がる。
とにかく病院に行かねばと、原爆病院に電話した。内科の先生に校医をお願いしていたのである。
芦塚先生にも連絡し、先生がgくんをおんぶして、玄関前のタクシーまで運んで下さった。
待ち受けていた当直医は、すぐに診察。g君の訴えを聞いていた医師は、
「どうも腸捻転のように思われます。最悪の場合手術ということになりますが、その前に浣腸をしてみます」
と、看護婦に浣腸の準備を命じた。すぐに500ccは入るかと思われるイルリガートルが運ばれてきた。
ベッドに横になっていたg君、薄目を開けてその器具を見ていたが、飛び起きて、
「先生、紙下さい」
「え、何ばすっとね」
私が差し出したチリ紙をひったくり、トイレに駆け込んだ。
ところが、待てど暮らせどトイレから出てこない。
―――もしや、ひっくり返っているのでは。
と、心配になり、ノックをすると返事があったので一安心。
しばらくして戻ってきたg君、いとも爽やかな顔である。
「あら、あんた、もうどうもなかとね」
「先生、オイは3日も4日もクソの出んかったとです。お医者さんの手術ばすって言いなったとば聞いたら、急に便所に行きとうなったとです」
けろりとした顔である。
「人騒がせもほどほどにせんね」
思わずどなって、医師と看護婦に平謝りに謝った。
「良かったですな。おおごとにならずに」
医師は大きな笑い声を上げ、看護婦は脇腹を抑えて笑いをこらえていた。
「芦塚先生も心配しとんなっけん」
と、学校に帰ろうとする私に、g君いわく。
「先生、今日のことは、どうぞご内分に―――」
「もう!」
二の句が継げない。
心配して待っていて下さった先生方、大笑いして、
「あいじゃろ!」