10 晩飯の心配
桟敷作りが始まった。男子は竹切りに勇んで出かける。桟敷作りを依頼した女子クラスはおにぎりやお菓子のさしいれの準備にいそがしい。いつ見ても微笑ましい東高風景であった。
「先生っ!」
中庭から保健室の私に切迫した声がかかった。
「fが竹切りに行って崖から落ちた!」
あわてて中庭に飛び出した。
別にたいした怪我には見えないけれど、fは友達に両脇から抱えられてぐったりしている。
「何ばしよったとね」
「オイたちは崖の上と下とに別れて作業ばしよったと。切った竹ば崖に沿うて滑り落として、そいば下の者の受け取って担いで運ぶ手筈じゃったと。
―――おーい、落とすぞ。
ってfの声んしたけん、
―――おお、良かぞ。
て言うたら、竹は落ちてこんで、fの落っちゃけてきたと」
笑うに笑えない。ともあれ、原爆病院に運ぶ。全身の打撲だけとは思ったものの、万一頭でも打っていたらと心配でもあったからである。
「まあ大丈夫でしょう。でも一日だけ入院してもらって様子を見ましょう」
当直の医師も慎重であった。
「学校にも報告せんばいかんし、お家にも私から連絡すっけん、帰るよ」
「うん。ばってん、今から入院しても晩飯は食わせてやんなっとやろか。オイは腹のへったあ」
食いしん坊のf君、元気にしているだろうか。