17回生平井杏子さん(本名:平井法)の新著をご紹介します。平井さんは、カズオ・イシグロの研究者で、2011年に『カズオ・イシグロ 境界のない世界』を出版されています。イシグロとゆかりのある人々を知る著者が、ビジュアルを多用してイシグロの中にある長崎の再現を試みた著書で、長崎出身者にとって慣れ親しんだ場所や往時の記憶が呼び起こされる興味深い著作です。


◆著者 平井杏子(17回生)
◆出版社 長崎文献社
◆判型 A5版
◆頁数 140頁
◆ISBN 978-4-88851-291-6
◆発行日 2018年3月15日
◆定価 本体1,800円+税
◆購入 長崎文献社
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全国書店から取り寄せもできます。
◆著者略歴
1965年 長崎東高卒業
1969年 昭和女子大英文科卒業
同大学近代文学研究所助教授を経て、教授となる
現在、昭和女子大名誉教授
◆著書
「アイリス・マードック」(彩流社、1999年)
「アガサ・クリスティを訪ねる旅」( 大修館書店、2010年)
「カズオ・イシグロ―境界のない世界」(水声社、2011年)
「ゴーストを訪ねるロンドンの旅」(大修館書店、2014年)
その他、共著、翻訳も多数。

新中川町と彦山
◆目次
はじめに
フォトリポート ノーベル賞授賞式
第一章 生誕の地
長崎市新中川町というカズオ・イシグロの原点
第二章 家族のこと
祖父と両親の個性的な生き方
第三章 カズオ少年の長崎
そしてイギリスへ
第四章 小説の中の長崎と日本
1 遠い山なみの光
2 浮世の画家
第五章 〈遠い記憶〉の残響
1 日の名残り
2 充たされざる者
3 わたしたちが孤児だったころ
4 わたしを離さないで
5 忘れられた巨人
おわりに
カズオ・イシグロ年譜
参考文献
◆内容紹介(まえがきから抜粋)
「小説家であるイシグロが読者の心に共振を呼び起こそうとする〈感情〉とは、彼の内にどのように醸成されたものなのだろうか。イシグロが伝えたいという〈感情〉の通奏低音は〈記憶〉である。イシグロの描く人物たちの悔恨も苦悩も悲哀も喜悦も、イシグロ小説の主題である〈記憶〉が、イシグロの日本、特にイシグロの長崎と分かちがたく結びついていることを否定するものはいないだろう。」

 カズオ・イシグロが2017年のノーベル文学賞を受賞したというニュースは、すぐに日本中を駆けめぐった。5歳まで長崎で育ったとはいえ、イギリスで教育を受け、イギリス国籍を持つイシグロは、「ボーダレス作家」「インターナショナル作家」と評価されることが多い。長崎を舞台にした「遠い山なみの光」でも、長崎という場所は「感情」を表現する舞台装置であり、場所が長崎である必然性を否定していた。ところが、イシグロの受賞後のスピーチは、長崎と平和を強く意識したものだったことに少し驚きを感じた人も多かったのではないかと思われる。
 著者も「おわりに」で、「ノーベル賞受賞後のイシグロが、日本や長崎との臍帯を積極的に口にしはじめたのは、実に嬉しい驚きであった。」と述べている。
 本書は、イシグロが過ごしたころの長崎、家族、縁者を丁寧に追いかけている。また、イシグロの長編の解説に加え、最近の発言にも触れていて、イシグロの全体像を知るには格好の書籍になっている。イシグロとイシグロの著作に興味のある方は是非、ご一読を。
文責:17回生 井上早苗( 2018/03/31)
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