カズオ・イシグロが2017年のノーベル文学賞を受賞したというニュースは、すぐに日本中を駆けめぐった。5歳まで長崎で育ったとはいえ、イギリスで教育を受け、イギリス国籍を持つイシグロは、「ボーダレス作家」「インターナショナル作家」と評価されることが多い。長崎を舞台にした「遠い山なみの光」でも、長崎という場所は「感情」を表現する舞台装置であり、場所が長崎である必然性を否定していた。ところが、イシグロの受賞後のスピーチは、長崎と平和を強く意識したものだったことに少し驚きを感じた人も多かったのではないかと思われる。
著者も「おわりに」で、「ノーベル賞受賞後のイシグロが、日本や長崎との臍帯を積極的に口にしはじめたのは、実に嬉しい驚きであった。」と述べている。
本書は、イシグロが過ごしたころの長崎、家族、縁者を丁寧に追いかけている。また、イシグロの長編の解説に加え、最近の発言にも触れていて、イシグロの全体像を知るには格好の書籍になっている。イシグロとイシグロの著作に興味のある方は是非、ご一読を。
文責:17回生 井上早苗( 2018/03/31)