山に魅せられて

4組 小関 好子

koseki

「ビンボウ人の観光旅行」に飽き飽きしていた頃,新聞で「ミヤマキリシマ山行募集」の記事を見つけ,出かけたのがきっかけで私は山岳会員になってしまいました。運動神経のまるでない,山歩き経験も少しもない私が入会してしまったのは,その時,あまりの自然の素晴らしさに感動してしまったことと,会員の皆さんにいい人が多かったことが大きかったと思います。とにかく40歳を過ぎてから図々しく山岳会員とかいうものになってしまったのですが,その図々しさが私に思わぬプレゼントをしてくれています。近郊の山をはじめ九重山系の大船山やワイタ山,紅葉の祖母山,根子岳の大山レンゲ,新緑の男池周辺,涼風吹きぬける坊がづる,自然の中にいるとき,自分がひとりでに素直になり幸せになっているのに気づきます。時には詩人に,時には画家にもなります。先輩に花の専門家あり鳥の専門家ありで,解説をしていただき,いろいろ学びながら楽しく登る方法も知りました。夏の沢登りは,「こんな楽しい遊びがあったの!」というほど素敵なものです。まさに神の造られた箱庭を,清流につかりながら遡って行くのです。ヘルメットをかぶり,地下足袋にワラゾーリをくくりつけ,腰には細引き,どこの工事現場のおばさんかという扮装で,背中のザックには濡れないよう何重にもナイロン袋をまいたお弁当が入っています。一人の子供にもどり,都会の騒音をすべて忘れ,夏の暑さからも解放され,自然の素晴らしさを満喫するのです。お昼には朝挽いたばかりのコーヒーをいれて,谷間中によい香りをふりまいていただきます。こんな楽しいことを今まで知らなかったなんて。こんな素敵なことをこの年になって味わっていいのかしら。よい友人が40歳をすぎてからできることも知りました。私のあの時の図々しさが,思わぬ喜びを生み出しています。そして,案外人生の妙味などというものは,思わぬところにあるのかしらなんて思ったりもしているのです。

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サッカー大好きお母さん

4組 久保 (松尾)瞳

kubo
(左端が久保さん)

 この頃私の関心事は「いかにして心身共に健やかに老いるか」ということです。
 私の家族は長男(大3)次男(高3)と夫婦の4人。この長男が家を出てしばらくしてとてもショッキングなことを経験しました。朝一人っきりでボーッと新聞やテレビを見ていると,突然息苦しくなって何もかももどしてしまいそうで,そして言いようのない虚無感に打ちのめされそうになったのです。私は自分自身を取り戻そうと必死になりました。これからの人生の楽しいことばっかりを考えるようにし,「私にはサッカーがある。登 山も釣りも,まだまだやりたいことがいっぱいある。主人と二人で元気にやってゆく」と大声で叫んだら,まるでうそのように気が静まっていったのです。  サッカー大好き母さんは,夏の暑い日も小雪ちらつく冬の日も競技場に足を運びます。ヨーロッ パの情報も雑誌で仕入れ,若者と会話できる知識を持っていたいのです。次男はこう言います。 「サッカー雑学の母さん,戦術の父さん」と。
 また寝たきりにならないためにはジョギングを続けます。夕方Tシャツに着替え,人目も気にせ ず,家の周囲をひたすら走ります。競歩に少し毛のはえたスピードで坂道も一歩一歩と自分を励ましながら,また季節の移り変りを確認しながら走ります。途中,黙々とウォークを続けている夫婦 や老人とすれ違って「みんな頑張ってるな」と元気が出てきます。先日同窓会の後,湯布院マラソンに参加しました。「年相応の走りをして下さいよ」の忠告をすなおに受けとめ,優勝はせぬぞ,とゆっくりマイベースで10km完走しました。温泉にひたって幸せ気分,48歳の母さんもなかなかだね。
 実益も兼ねての釣りは,いつも高価な魚になってしまうけど,海をながめての数時間は磯の香りに包まれて懐かしいふるさと。  こんなふうに私の休日は,カレンダーを調整しながらの青春です。そして,年老いての茶飲み話は楽しい話題で満載というのが今の私です。

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高校生にタイムスリップ

5組 畑地(菅)和美

hatati

「あっ,菅さんじゃない」と数人から声をかけられた。卒業以来一度も会っていないのに「どうして?」とびっくりした。東高第18回の同窓会当日,集合場所の公会堂でのことである。私の頭はなすがままの白髪状態なので,ほとんどの人は気づくまいと思っていたからだ。誰もわかってくれなかったらどうしようと前日までは一抹の不安があった。「顔は全然変わってないよ」と言う友の声に安堵した。数台の車にそれぞれ分乗して,一路雲仙へ向かう。在学中はたぶん一度も話したことがない人とも同窓生という意識が垣根を取っ払い,何年来の友のように打ち解けてゆく。やがて会場の新楊ホテルへ到着する。もうあちらこちらで華やいだ声があがっている。宴会では懐かしい長崎弁で話が弾む。美味しい料理と幹事の方々の計らいで宴も盛り上がり,やがて二次会のカラオケ会場へ。全員久々に会う友に気分はまさに18歳。高校 生へタイムスリップである。喧騒の場が苦手で躊躇している私も引きつられて行った。いつしか肩を組み手をつなぎ,歌っている自分に我ながらびっくりした。楽しい雰囲気のその場から離れる口惜しさから,とうとうお開きまで残っていた。
 夜来の雨も上がり,朝霧が雲仙の山々からすっと晴れていく頃には,高校時代の感激から現実に引き戻され,車中の人となりました。
 私は昨年の12月結婚25周年を迎え,現在大学生 (4年と2年)高校3年生の3人の子供がいます。 長男・長女と同様にこの次男もあと半年後には, 親元を離れようとしています。親子5人で食卓を囲んだ日々がついこの間のような気がします。今は年に数日しか家族団欒を味わえません。主人の わがままと私の忍耐(世間の評価はまったく逆ですが)とで,今日まで無事やってきました。
 子供達は自分の目標に向け,躓きながらも確実に歩み続けています。子供が親離れしてゆく淋しさと,子供の逞しさを頼もしく思う気持ちが錯綜した日々の中で,遅れてはならじと,4年前から法律関係の仕事と出合い,慣れない六法の勉強に毎日冷や汗を流し,生来の勉強嫌いを悔やんでいます。
次回の同窓会を楽しみに筆をおきます。




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